暑い夏、台湾飲茶のすすめ

アジアで食い倒れ
九份の夜

暑い季節に冷たい飲み物。

美味しいですよね。

しかしこの頃、冷たいものを飲むたびに、留学時代の中国人フラットメイトの言葉が頭を過ぎります。

「Nasu、冷たいものはよくないわ。女の子でしょ」

特に月からお客さんを迎えている時などにアイスクリームを貪っているのが彼女たちにバレると、顰蹙をかったものです。

彼女らは、外食する時に頼むものも、お湯。中華料理店では店員もなんの疑問もなく出してくれるのですが、英国の一般的な飲食店では一様に怪訝な顔をされつつ、めげずに注文していました。

中国というと大きい国ですので、当然寒いところから暑いところまで多様な風土のエリアがあります。バラバラにいくつもの土地から来ていた同級生たちですが、郷土の気候に関係無く、暖かい飲み物をよく飲んでいました。

男の子たちは、冷えたコーラやアイアン・ブル(スコットランド人が愛してやまない100%人工的な原料、味、見た目の飲料水)も、結構飲んでいたのですけれど。

冷たいものは身体を冷やす、とわかっていても、つい欲しくなるもの。その点、医食同源の国から来た中国女子の徹底ぶりには瞠目するものがありました。

ちなみに、中国からの留学生というと、極めて頭のいい人から、いつ見ても図書館で勉強している風ではあるもののそれほど成績の良くない、おそらくただ真面目な人まで、実に色々なタイプの人がいました。

中には「お金持ちが暇つぶしに来ているんだな」と思わせる人々も常に一定の割合でいて、こういうタイプは留学という大義名分を得ながら遊ぶためにいかに授業をサボるかということを考えており、一時これが学校内で問題になったことがありました。

英国で留学生としての身分を得るためには、最低限必要な週や月の授業時間というのが決まっていて、さらに大学の認める単位を得ようとすればそれなりの出席率が求められるわけですが、中国人学生の一部には「医者に行く」という理由でそれを満たさない者が出てきたのです。「病欠」というやつですが、問題はこの場合の「医者」がいわゆる「漢方医」であったこと。

中国人というのはどこでも独自のコミュニティを作るので、おそらくそういった職業の人間もいたのでしょうが、いくら大学が多様な文化を受け入れる方針であるといっても、西洋の医師免許を持っているのかも怪しい人物からの診断書など提出されたところで、鵜呑みにはできません。結局、「チャイニーズメディスンの診断書は授業の正式な欠席理由として受け入れられない」という告知がなされる事態となりました。

この話を真面目な中国人フラットメイトとしたことがありました。彼らの中でも漢方医が一部の学生の「サボり」の隠れ蓑になっていたのは有名だったので、決定は仕方がない、としつつ、

「向こう(中国)にいるときは、基本的に何か体調不良があればまず漢方医に行くのが普通だけどね。僕は大きなホスピタルには行ったことないよ」

と言っていました。

個人差はあるのでしょうが、今でも中国人は東洋医学に基づいた生活を基盤にしているのかもしれません。

そこでふと思い出したのが、以前、台湾に行った際に毎日のように嗜んだ飲茶文化です。

訪れたのは5月の初旬。すでに日本の真夏のような蒸し暑さだったのですが、「お茶をする」というと、必ず熱いお湯を使って中国茶を入れていました。

猫空の茶屋の飲茶セット。左奥に茶器がある

中国茶というと、大抵は厚みのある盆(茶盤)に、土で焼いた小さめの急須(茶壺)、お茶を注ぐ器(茶海)、ぐい呑のような小さな湯飲み(茶杯)と筒のように細長い湯飲み(聞香杯)が乗っているのが基本。

本来の作法はもっとちゃんとした手順があるのでしょうが、台湾のお茶屋さん直伝の方法をざっくり説明すると、

①茶器にお湯を入れて温める。

②急須に茶葉を入れ、最初にお湯をガバッと入れて溢れさせて蓋をし、表面のホコリを払う。温度が下がらないよう、急須にもお湯をかける。

③茶海にお茶を注ぎ、濃度を均一にしてから聞香杯に注ぐ。

④聞香杯に茶杯をかぶせて、くるっとひっくり返してから、ゆっくり持ち上げてお茶を移す。

⑤聞香杯に残る香りを聞いてから、お茶をいただく。

⑥後はひたすら、何度も何度もお茶を入れては楽しむ。

といったところでしょうか。

全ての工程を二重構造の、水がはけるようになっているお盆の上で行います。

熱いところを来て、熱いお茶、というと、初めは「うっ」と思うのですが、台湾特産の高山茶の香り高い一杯をくいっっと飲むと、汗がスッと引くような、不思議な心地がしました。

そして、近しい人とのんびり話しながら点心をつまみ、繰り返しお茶を入れては香りを楽しむ。何とも贅沢な時間です。

これが飲茶の楽しみ方なんだなぁ。

羨ましくなる文化だと思いました。

出てくるお茶受けやお菓子も、素朴で美味しいものばかりでしたので、少しご紹介します。訪ねたのは、九份や猫空(マオコン)のお茶屋さんです。

先の写真に写っていたのは、ナッツと、魚のシートにゴマが挟んであるもの。甘くないお茶受けで、ついつい手が出てしまう飽きない味でした。

九份のお茶屋で出てきた茶菓子

こちらは九份にある、「千と千尋の神隠しの湯屋にそっくり」と騒がれたことのあるお茶屋さんのお茶菓子。

奥の緑色が、緑豆を使ったしっとりめの落雁のようなもの。右の白と黒の板状のものは、ゴマが蜜でぎゅっと固められたお煎餅で、日本人にも馴染みのある美味しさ。手前の赤っぽいのだけは、何故か一切の記憶がありません。うーん、美味しくても不味くても印象には残ると思うので、あまり特徴のない味だったのかも。

こちらでは階段の途中にある店舗の屋上でお茶がいただけるので、九份の景色も存分に楽しめました。

お茶をしながら眺める九份の街

お茶屋さんから眺める九份の夕暮れ

九份の茶房から眺める日暮れ。

日が落ちると、海ではイカ釣り漁船の明かりがつき始めます。点々と灯っていく光が幻想的でした。

九份の夜

提灯に明かりが灯ると、一気に異国情緒漂う街になります。

お次は猫空の茶芸館。

猫空は台湾の高尾山のような山で、上の方には茶畑が広がり、中腹には道教の寺や動物園などもあります。ロープーウェイは足元が透明なものもあって、なかなか楽しい道行です。

猫空に茶房はたくさんあるのですが、頂上付近のお茶畑を散策した後、暑い中探し回るのも億劫で、入ったのはロープーウェイの終点からほど近い茶房。中は川もあれば太鼓橋もかかっていて、プチ邸宅のような空間でした。

猫空の茶房

猫空の茶房の一室

個室がいくつも並んでいて、外を眺めながら落ち着いてお茶ができます。

猫空の飲茶、小籠包

猫空の飲茶、饅頭(肉まん)

ちょうどお昼の時間だったので、小籠包や肉まんのような点心も頼んでみました。冒頭の写真にあるお茶請けも含め、出てくるのはどこか懐かしい、素朴なものばかり。量もたっぷりです。

とりとめのないおしゃべりをしながら、暑さを避けて、日がな一日お茶をする。そんな様子の伺える、地元の台湾人の姿もちらほら。

飲茶を楽しむ台湾の人々

猫空のお茶屋さんは、そこだけ時間がゆっくり流れているような、特別な場所でした。

台北の市街地でもいくつかのお店で飲茶をしたのですが、食べるばかりであまり写真も残っておらず、記憶が曖昧なのが残念。

数年経って、きっと点心や茶菓子にも新しい味が加わったことでしょうし、そろそろ再訪したいものです。

台北市街地にて飲茶。蒸しパンとゴマ団子。

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