英国で一番美味しいのは、ブレックファスト(朝食)である。
というのは、よく聞く話です。
仕方がないので、三食ずっと朝食を食べ続けなければならない、という皮肉に繋がる訳ですが。
ともかく、朝は軽く済ませがちな欧米人にとって、ガッツリ系の英国フル•ブレックファストは、たいそう豪華に見えるのでしょう。確かに、比べてしまうと、アメリカ式のコンチネンタル•ブレックファストなどは味も素っ気もないような気がします。
個人的にも、この朝食文化はよく働く英国人の気合が感じられて、嫌いじゃありません。最近では他の欧州国でも提供しているところがあるそうで、ドイツとか、オランダとか、北欧とか…(アレ?何だか共通点が…気のせいかな)
自分でも、B&Bなどでたまに食べる分には良いものです。ただ、日本人からするとほとんど酒のつまみのようだし、壊滅的に野菜がありませんけれども。英国人的には、オレンジジュースとマーマレードでビタミンをとれば良いそうです。
時にはダバーっと、ベイクドビーンズという、形がなくなるほど煮た白豆のトマトソース漬けを添えて、栄養満点と胸をはることもあります。ある意味、ここまでして栄養をとるのね、と感心するほどの味ですが。
余談ですが、イギリスには、このベイクドビーンズが美味しいと、心から思っている人が結構たくさんいます。グリーンピースを煮潰した緑色バーションもあるところをみると、彼らは豆に相当の信頼を置いているのでしょう。
さて、一口にフル•ブレックファストと言っても、英国が4つの地域で明確に分かれているように、それぞれの土地ではそれぞれの名前を冠して呼ばれます。イングリッシュブレックファスト、スコティッシュブレックファスト、アイリッシュブレックファスト、といった具合です。ウェリッシュというのも当然あるのでしょうが、私はまだ食べたことがありません。
この写真はどこのフル•ブレックファストか、ご想像いただけるでしょうか。
基本的に中身はどこもそれほど変わらないのですが、地方ごとの特徴的な食材が混じっている場合が多いです。この場合は皿の左上、トマトの下の丸い物体二つ。
ホワイトプディングとブラックプディング、と言います。
ということで、はい、アイリッシュ•ブレックファストです。
両方ともアイルランドの名物で、血のソーセージ、というとグロテスクに聞こえてしまいますが、香辛料がたくさん入っていて臭みも気にならず、案外美味しいです。
スコットランドはというと、伝統的にどこにも増してボリューミーなのが鉄則らしく、また、メニューも豊富です。
グリルしたニシンや、白味魚のタラの燻製、タティスコーンという芋を使ったパンケーキのようなもの、言わずと知れたハギスが朝から出てくることもあります。
問題なのが、写真左下にもある、ソーセージ。この写真にのっているものは、おそらく正しく調理され、きちんと火が通っていて、食感はムチっとしていますが不味くはない。
しかし、これの扱いというのがいささか厄介で、私はついに、いわゆるブリティッシュ•ソーセージというものを美味しく料理することなく留学を終えてしまいました。
初めにスーパーで見たときは、日本で食べていたドイツ風のソーセージとそれほど違うものだとは思わずに、随分柔らかいけれど加熱すれば何とかなるだろう、くらいの気持ちで購入しました。
寮に帰って、早速茹でてみたものの、待てど暮らせど硬くなる気配がありません。熱湯に入れて15分たってもふにゃふにゃのまま、20分経つ頃には何だか油のような白い液体が漏れ出してきました。
き、気持ち悪い…
何とか引き上げてフライパンで焼こうとするものの、軟体動物のようなまま。滅多にないのですが、泣く泣くゴミ箱にさようならしました。もったいないとは思いつつも、どうにもならない、お手上げ状態でした。
この時の体験がトラウマになって、その後スーパーでソーセージを買うことはありませんでした。パリッとしたドイツソーセージも見つけられず、ハムのコーナーに一つだけあった、生ではない、小さいウィンナーの形をしたのを恐る恐る購入し、ピザの具に使ったくらい。
もっと後になって、イタリアのサルシッチャという腸詰め肉の使い方を知りました。これは柔らかいままのものを、少しずつひりだして、焼いたり茹でたりして使うのですが、サルシッチャのパスタなど絶品で、日本では手に入らない食材なので、ひき肉で代用してでも食べたいと思うほど。
その時に、
「そうか、あれはサルシッチャみたいにして食べるものだったのか!」
とピンときたわけです。
でも、今調べてみると、どうもそれとも違う様子。
英国に住んでいる方々の記事を読むと、どうやら「じっくりオーブンで焼く」というのが正解?のよう。商品パッケージの裏側に買いてあったというので、まず間違いはないでしょう。フライパンでよく焼くのでも良さそうです。
そういえばブレックファストのソーセージも、ちゃんと形を保ったまま出てきていました。さぞじっくり、時間をかけて焼いてくださったのでしょう。涙がちょちょ切れそう。
しかしちらっと調べただけでも、イングリッシュ•ソーセージの評判は(イギリス人以外には)散々たるもの。もともと、パン粉やら脂やらの肉以外の詰め物が大量に入っている品物らしく、中にはあまりの不味さに失神したという日本人の話も…逆に興味が出てきますね、そこまでのものとは。
ちなみに、英国の朝食用のソーセージが初めてできたのはスコットランドのアバディーンだという話も見かけたのですが、本当でしょうか。
スコッティッシュといのは、度々こういう独特のものを生み出しては愛し続けているので、さもありなんという気もします。意味不明なほど高カロリーな「揚げマーズバー」だの、人工的な味しかしない「アイアン•ブル」だの。
もちろん、美味しいものもありますよ。
イギリス人の朝食に欠かせない物といえば、薄いトーストに塗るためのマーマレード。このマーマレードは実はスコットランドのダンディーでできたというのが国内では定説ですし、英国菓子の代名詞であるスコーンも、スコットランド発祥と言われています。
この辺のお話は長くなりそうなので、また別の機会に。
何年越しかに正しい調理法がわかった英国ソーセージ。
しかしトライしたいという気持ちがわかないのはなぜでしょうね。ひたすらじっくり火を通すという点では、とてもイギリスらしい食材と言えるかもしれませんが。
調理法としては、ボイルだけは避けた方が良さそうです。また、焼く時に穴を開けるのもお忘れなく。爆発するそうですので。
美食とは言い難い話題が続いたので、次回はぜひ、スコットランドの美味しいものについてご紹介したいと思います。
コメント