留学時代に驚いたことの一つとして、賞味・消費期限の短さがありました。
賞味期限はbest before date、消費期限はuse by dateと言います。実際には、use by dateはあまり見かけず、best before dateと書いてあることが多かったように思います。
best before dateは、sell by dateとも言い、つまりこの日までは店で売って良いと認識されているので、best before date当日の食品がスーパーの棚に陳列されているのは、英国では普通のことです。
平然と、定価で売られていたりします。ちゃんと割引している時もありましたので、案外忘れているだけで、言えば割り引いてくれたりするのじゃないか、と今でも思っています。
私は最初のうち、これを見るたびに不思議な気持ちになったものです。日本で賞味期限当日の食品が定価で売られていたら、ちょっとした話のネタになりそうではないですか。しかも、だからと言って実際の賞味・消費期限が意外と長い(食べられる期間が長い)ということは、絶対にないのです。
むしろ、すぐダメになる。
日本に比べれば、驚くほど、あっという間です。
理由として考えられるのは、
・衛生管理が適当(あくまで日本比)
・科学的な調味料を入れていない、あるいは種類や量が少ない(日本は化学調味料や薬剤の使用量がダントツ世界一らしいので)
の2点かな、と思います。専門家ではないので、もしかしたら他にも理由があるかもしれません。
後者の理由を考えると、一概に悪いこととは言えないのですが、それにしても短い。
特にそれを感じたのが、牛乳でした。
ミルクの場合は、日本(高温殺菌が主)と違って、基本的に低温殺菌牛乳が主流である、というのも理由の一つでしょう。
賞味期限の短さを認識してから、なるべく日が先のものを選んではいたのですが、そもそも1週間もつものはほとんどありませんでしたので、変わってもほんの数日。
ちなみに、所属していた大学のすぐ隣にはGraham’s the Family Dairyという乳業大手の本拠地がありましたので、常識的に考えてこれ以上ないくらい鮮度の良い製品が届けられていたはずです。
面白かったのは、牛乳の種類によって腐り方に違いがあったこと。
英国の牛乳は、大まかに2つの基準で分けられます。
一つは、skimmed milk スキムミルク(調整乳、脱脂乳)かwhole milk 全乳か。
もう一つは、Organic(有機)か否かです。
スキムミルクにはさらに、semi-skimmed milk セミスキムミルク(脂肪分一部除去、大抵は50%)があります。それぞれ、スキムミルクは赤、セミスキムは緑、ホールミルク(全乳)は青のパッケージに色分けして売っています。
この二つの組み合わせで、例えばオーガニックの全乳とか、単なるスキムミルク、といった種類があり、サイズも含めて、消費者は自分に合ったものを選んで買います。
(余談ですが、前述したグラハムさんの会社は、オーガニックのスキムミルクを最初に作った企業としても有名です。)
欧州では昨今、超高温殺菌のLL(ロングライフ)牛乳が流行っているらしいですが、英国ではまだまだ低温殺菌されて冷蔵保存のフレッシュなミルクが好まれているようです。
あの頑固さでもって、
「やっぱり紅茶にはこのミルクでなきゃね」
と思っているかは定かではありませんが、なんだかんだ言って、クリームとか、乳製品の味の濃さを愛している節があるので、日常飲むものとして、LLミルクは人気が出にくいのかもしれません。
個人的にも、保存用としてならともかく、栄養面でも味的にも低温殺菌牛乳を買いたいと思っていましたし、せっかくなので毎回フレッシュな方を選び、さらに味はどうだろうと、色々試してみました。
やっぱりホールミルクは味わいがあり、スキムは美味しくない。セミスキムはまぁたまになら許容範囲、という感じだったのですが、味以外に発見したのが、腐って行く様子が種類によって違うということでした。
普通の(オーガニックでない)ミルクは、獣臭がするようになるとダメ。
オーガニックのスキム系は、少し酸っぱくなる。
そして、オーガニックのホールミルクは、冷蔵保存しておくとそのまま、ヨーグルトになったのです。しかも、best before dateの前に(笑)。
凄いのは、このヨーグルトが単に古くなって固まったとか腐ったとかいうのではなく、まさにヨーグルトの匂いでヨーグルト以外の何物でもなかった、ということです。
正直に言いましょう。
飲みました。
お腹は壊しませんでした。それが特別丈夫なお腹のせいなのかどうかはわかりませんが、味も普通に美味しい飲むヨーグルトでした。
しかし、情けなくも日本で純粋培養されて常識に縛られていた私は、全てを飲みきる度胸がありませんでした。
何度かこんな経験をした後、クラスメイト達に話したところ、韓国人の女の子が
「次は私も試してみたい!」
と言っていたのですが、結局それ以降、うまい具合に自家製ヨーグルトを培養することは出来ませんでした。何がしかのタイミングがあったようです。
あのヨーグルトの味は、今でも、当時の新鮮な驚きとちょっとした感動と共に、記憶に残っています。
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