地図を広げてみるとよくわかるのだが、ベルギーは英国から最も近い欧州の国の一つだ。
ロンドンからブリュッセルまでは鉄道ユーロスターでも移動可能だし、エディンバラから飛行機で飛んでも、フライト時間は一時間半ほど。
欧州内に住んでいると、旅行が本当に楽しい。なぜと言って、そもそもやはり他国との距離が近いので、例えば二~三日でも休みがあれば、ちょっと気分転換に、やることが一段落したご褒美に、気になる国へ行って過ごすなんていうことが日常的にできるわけだ。
LCC事情も発達していて、安い航空チケットが安心して使えるのも大きい。短い休みを利用して、様々な特色ある国や地域に出かけられる環境は、私にとってはまさに天国のようだった。
突然決めたベルギー行きも、八月のサマーホリデー真っ最中であったのにスムーズに航空券が取れた。格安航空会社の雄、ライアンエアーで当時、六千円くらいだったと思う。グランプラスと中央駅のちょうど間あたりでビジネスホテルの一室も見つけることができた。
ただし、ベルギー人というのは、とても親切な人もいれば、アジア人への態度があからさまに悪い人もわりと多い、というのが個人的な感想だ。実際、空港で入国審査を受けた時、英語で話してくれと言っているのに、フランス語だかオランダ語だかをすごいスピードでまくしたて、こちらの反応を見て同僚と肩をすくめる、という失礼な態度の職員がいた。後ろに何人も並んで待っているのに暇な人間もいたものだが、入国審査だから、頭にきたからと言って無視して通り過ぎる訳にもいかない。最終的に、数少ないフランス語の語彙を繋ぎ合わせ、
Je ne parle pas Français! (フランス語は話せません)
Parle Anglaise, s’il vous plait.(英語を話してください)
とかなんとか連呼して解放された。
また、ブルージュで観光ボートを利用した時、乗り降りの際に乗船客に手を貸していた船頭が、私ともう1人のアジア系の男性の番になると、とたんに手を引っ込める、ということもあった。あからさますぎて怒る気にもならない。別にこっちもあなたの手なんかさわりたくありませんけど、という感じである。
もちろん、親切な人もたくさんいた。迷っていたらわざわざ目的地まで道案内をしてくれた学生さんも、バスで両替できずに困っていた時に声をかけてくれた人もいた。しかし、ベルギーに対して「EUが本部を置き、コスモポリタンが集う国」というイメージを持っていたら、落胆せざるを得ないのは事実だろう。人種差別や偏見はどこにでも存在するが、数日という短い滞在期間で目の当たりにするには、少ないとは言い難い印象だった。実のところ、歴史的に多くの周辺諸国に翻弄され、現在も三つの公用語をもつこの国は、我々が想像するよりもっとずっと、複雑な国家事情や国民感情を抱えているのかもしれない。
さて、そんなベルギーだが、皆が一様に愛する国民食が「フライドポテト」。この点では大いに気が合いそうだ。と言って、「スープとポテトが名物の国にはもともと美食文化がない」という持論がある身としては、あまり大きな声で万歳三唱できないのだけれど。
数年前、EUでベルギーのフライドポテトの安全性が問題視されたことがあったが、この時ばかりはベルギーは一致団結して猛抗議。ついに昔からの製法を守りきった、という経緯がある。ベルギーのフライドポテトの特徴は、(これが問題視される原因にもなった)「2度揚げ」する点だ。はじめ低音で火を通し、次に高温でカリッと揚げる。身体に悪いとわかっていても、まさにやめられない止まらない旨さが生まれる。
この作り方で不味くなりようがないものだと思うが、やはり旅行中三度ほど食べたフライドポテトはどれも美味しかった。作り方がどこでもさほど変わらないので、どこの店がどうという甲乙もつけがたくなるわけだが。
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ガーディアン(英語):https://goo.gl/gQaorn
さらに、ベルギーの美味しいものといえば「ムール貝」。七月から出回り始め、秋冬にかけてが特に美味しいそう。「ムール貝の初物」は、毎年ベルギー人が非常に関心を寄せるところであるらしい。
ポテトとムール貝と言えば、スコットランドやお隣アイルランドとも共通の名物として、よく名前があがる。ポテトに関しては言わずもがなだし、欧州各地では肉厚のムール貝が日本では考えられないほど安く、鍋いっぱい食べられるところが多いのだけれど、イギリス北部でもこの貝はよく取れる。
スコットランドでは、エディンバラやグラスゴーなどの大きな街、あるいは小さくても海辺の町なら、数多くの店が美味しいムール貝を提供しているし、あるいは、キッチン付きの宿に泊まるなら、スーパーへ行ってキロ数ポンドのムール貝を買ってきて、刻んだニンニクとセロリと一緒に白ワインで蒸すだけでも十分美味しい。
冬のムール貝も美味しいが、夏場に屋外でよく冷えた白ワインやビール片手にパクつくのは格別だ。嬉しいことに、この二つの名物はセットで提供されることが多い。一度の食事で二種類、異国の美味を味わうことができるわけで、なんだか得した気分になれる。
ベルギーで初めてムール貝&フライドポテトに挑戦するなら、チェーン展開もしている超有名店、「Chez Leonシェ・レオン」がおすすめだと言われ、行ってみた。
実際、中心部の、便利ながら煩雑な界隈にあって、そつのない接客とたっぷり新鮮な料理を楽しむことができるレストランだった。混むと聞いていたので、夕食前のアイドルタイムに予約なしで行ったのだが、お客さんはちらほら。食べている間に少しずつ増えていった。店内はカジュアルながら歴史を感じさせる雰囲気があり、落ち着いて食事ができた。
もはや鍋というよりバケツ一杯のムール貝を前にする幸せよ。白ワインとセロリなどの香草でシンプルに調理してあり、次から次に食べられる。ソースは色々と選べるが、濃い味のものは案外途中で飽きてしまうので、まずはノーマルなものが良い。何人かで行けばシェアできてなお良し。
フライドポテトとパンと、確か飲み物のビールまでセットで、20ユーロ前後だったように記憶している。決して安いわけではないけれども、満足できること請け合いだ。
一つ、注意したいのは、Chez Leonのあるイロ・サクレという地区は非常にたくさんの飲食店が連なっており、残念ながらその多くが上品とは言えない商売をしている、ということ。強引に入店させられ、法外な料金を要求する、というようなトラブルがよくあるそうだ。その辺りの店で、シーフードを食べてグラムで料金を請求されたら要注意。
細い通りを歩いていると、次から次へと客引きの男性たちが、時には日本語で声をかけてくるが、それらは全て無視したほうが良い。日本人としては愛想笑いの一つでも浮かべたくなるけれど、正直に言って、仏頂面で足早に通り過ぎるのが一番だ。ひとり旅の場合には特に気を付けるべきだろう。
多くの都市がそうであるように、ブリュッセルは安全なだけの街ではないし、イロ・サクレはとにかく所狭しと店が並んでいる。ブラブラと美味しそうな店を探すのが楽しいのはわかるが、この地域に限っては、はじめから目当ての店を決めておいて、そこを目指してさっさと通り抜けるのが賢いと思う。人も多いので手荷物にも気をつけて、美味しい料理を気持ちよく楽しみたい。
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