ジュリエットのいる街、ヴェローナでオペラを楽しむ

イタリアで食い倒れ
エルベ広場、マドンナ・ヴェローナの噴水

イタリア北部ヴェネト州に、ヴェローナという街があります。イタリアの他の都市に負けず劣らずの美しい古都で、点在するローマ時代の遺跡や、さらに時を下った中世の街並みが残っています。

それだけでも歴史のロマンを感じるところですが、シェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」の舞台となったことで、この街は一躍、恋人たちのロマンチックな旅先の一つとなりました。街中には「ジュリエットの家」と呼ばれる観光名所もあります。

さらに、夏場には「アレーナ・ディ・ヴェローナArena di Verona」と呼ばれるヴェローナの円形闘技場で音楽祭が開催され、壮麗な遺跡のなかでオペラを楽しむことができます。

数年前、ヴェネツィアからフィレンツェへ移動する途中でヴェローナに寄ったのも、アレーナでのオペラ鑑賞が目的でした。

円形闘技場というと、ローマのコロッセオが思い浮かびますが、実はあの中には入ったことがありません。

ローマはイタリアの首都であり、国内きっての観光地でもありますが、見るものが散在しているので、効率よく全て見てまわるには、なかなか難しい街です。イタリアは魅力的な地方都市や町の宝庫ですから、ローマの殺伐とした気忙しさが煩わしく、あえて再訪する気持ちにもなれません。さらに、コロッセオは似たような遺跡でもっと古いものを南イタリアで散々見ていたということもあり、一度きりのローマ観光の中で訪れないまま、なんとなくそれっきりになっています。

ヴェローナの円形闘技場であるアレーナは、規模こそコロッセオよりも小さいものの、より状態の良い形で遺跡が残っていると言われています。何より、今も実際に「使われている」という点において、その世界観を楽しむ上で非常に魅力的な場所のように思われました。

そんなわけで、熱心なオペラファンとは口が裂けても言えないものの、それなりにウキウキしながら晩夏のヴェローナを訪れたのでした。

街は音楽祭目当ての観光客で賑わい、それを楽しませる大道芸人があちこちに陣取っていました。

ヴェローナの大道芸人

マジックなどもそうですが、タネがあるとわかっていても不思議なものです。個人的にはカラクリを追求するわけでもなく、割とすぐ飽きてしまうのですが、お祭りのような時に彼らがいると、賑やかしで雰囲気が盛り上がるなぁと実感しました。

この大道芸人がいたのが、エルベ広場。ローマ時代にフォーロ・ロマーノ(公共広場)があった場所で、旧市街のちょうど中心に位置しています。

「エルベ」とはイタリア語で「ハーブ」を意味しており、かつてこの広場でたつ市には野菜とハーブのみが売られていたことから、この名前がついたそうです。広場には白い傘が所狭しと開き、花や土産物が並んでいました。

広場の中心には、マドンナ・ヴェローナの噴水があります。

エルベ広場、マドンナ・ヴェローナの噴水

この街を象徴するかのような歴史と優美さを感じさせる噴水は、中世の時代にヴェローナを支配したスカラ家が作ったもの。上に立つマドンナ像はジュリエットのイメージとも重なりますが、実はどこぞの王女様をモチーフにしたとかしないとか。胴の部分は古代ローマ時代の遺跡から、頭部と腕の部分は中世に新しく取り付けられたものだそうです。よく見ると、頭上に冠を戴いています。

ちょうど、このスカラ家の時代を舞台としたのが、ロミオとジュリエットの物語です。

街中には「ジュリエッタの家」という観光名所もあり、どこよりも人でごった返していました。

私はヴェローナというと、ロミオとジュリエットとともに、「ジュリエットからの手紙」という映画が思い浮かびます。

ヴェローナを訪れた女性が、この「ジュリエッタの家」に世界中から集まる、恋の悩みを綴った手紙への返信を書く手伝いを通じて、50年前の恋の結末を確かめる旅に同行する話です。もちろん、やがて自分の真実の恋も見つけることになる、というロマンス映画のお約束な展開が待っているのですが、とにかくイタリアの美しい景色とロマンチックな空気、美味しそうな食べ物が魅力的な映画です。

映画にも出てくる「ジュリエットへの手紙」に返信を書くボランティアの女性たちは実際にいて、「ジュリエットの秘書」と呼ばれています。

そんな映画の重要な起点となったジュリエットの家には、もちろん後付けなのですが、主役の2人が禅問答のような台詞で愛を語らったバルコニーも設置されています。

そして、おそらくヴェローナで1番の人気者が、この家の中庭に鎮座するジュリエットの銅像でしょう。

観光客が並んでツーショット撮影を試み、ついでに触れると恋愛成就すると言われる右胸に触っていきます。中には、どう考えてもセクハラにしか見えないおじさんが満面の笑みで彼女の胸を鷲掴んだりもしていました。どこまでも冷ややかな周囲の目に気づいてはいなかったのか、おじさんだけは非常に満足げでした。

ちなみに、私も遠慮がちにちょこっと失礼してきました。…効果についてはノーコメントですが。

さて、陽のあるうちに街をぐるっと回り、ホテルで小休止したら、観劇前の腹ごしらえ。

ペスカトーレとピッツァ

魚介の出汁が効いたペスカトーレ。アーティチョークとキノコ、サラミやソーセージののったピッツァは北イタリアらしい薄めの生地でした。

ヴェネト州のプロセッコもよく冷えて美味しかったです。

なんとなく入ったホテル前のレストランですが、さすがにイタリア、飲食店の平均点が高いのは嬉しいですね。調子に乗って見たことのないものも頼んでみました。

これがどんな名前の料理かはさっぱり思い出せないのですが、味はニョッキのようだったと記憶しています。周りにはチーズ、かりっとしたパンチェッタが少しかかっていて、かすかにトリュフのような香りがしたものの、残念ながら味は割と単調でした。

屋外で早めの夕食を楽しんでいる間にも、流しのヴァイオリニストがチップを求めてやってきました。

こういう時にはリクエストなどして実際に弾かせ、満足したらチップをはずむのが良いかもしれません。先にお金を渡すと、受け取って演奏もせずに去っていく不届き者もいます。

いよいよ夜の風が涼しくなり始めると、開演の時間が近づいてきました。

屋外なのでそれほど気負わなくても良いのですが、たまにはドレスアップすると気持ちも高揚してきます。

古代ローマからそこにある石のアーチをくぐれば、あとは壮大なアレーナで心ゆくまでオペラを楽しむだけ。

この時の演目は王道、「アイーダ」でした。

こんなロマンティックな場所でなら、どれだけずんぐりむっくりなラダメスも、精悍な男性と見えなくもないような気がするというものです。

遠目なのがまた良い。

アレーナ・ディ・ヴェローナのオペラ鑑賞

オペラは長丁場でしたが、閉幕後も、夜はこれからとばかりにレストランへ駆け込むイタリア人たち。

それを横目に、我々日本人はふわふわしながらホテルへ戻り、すぐに心地よい眠りについたのでした。

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